地図趣味のすすめ

地図趣味のすすめtop >地図帳・地図本の紹介 >東京の現在と過去

東京の現在と過去

東京の今の姿と過去を比較した地図集です。昔の地図だけに興味がある方は復刻版古地図をご覧下さい。

東京時代MAP 大江戸編

幕末の地図の上にトレーシングペーパーに印刷された現代の地図を重ね合わせたもので、江戸東京重ね地図のアナログ版です。江戸時代の地図は切絵図そのものではなく、1887(明治20)年刊行の『五千分一東京図』の地形に切絵図の内容を当てはめたものです。『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』は左右のページを見比べる必要がありますが、この地図は江戸と現代を重ね合わせて見られるので正確な対比ができます。

B5版よりやや大きい程度で、歩きながら見るのにもじゃまにはなりません。『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』とは違い、上が北で統一されています。また縮尺もすべての図で同一で、メッシュ図なので地図相互の関係がわかりやすくなっています。後半は雑学的なコラムですが、赤穂浪士が吉良邸から泉岳寺までどういうルートをたどったかなど、詳しい地図がついているのは参考になります。

残念なことに、掲載範囲がやや狭く、吉原も載っていません。また切絵図を忠実に再現しようとしたのか、江戸時代の地図の屋敷には人名だけしか書いてありません。対応する現代図の部分に「~藩~家上屋敷遺構」というような説明がついている図もありますが、説明がないところも少なくありません。「松平~守」だけでどこの大名かわかるのは、かなりの歴史マニアだけでしょう。これはやはり説明が欲しいところです。狭い区画では屋敷の人名表記もかなり省略されているので、この地図ともう一冊、切絵図の復刻版を併せて使うといいでしょう。

注文がないわけではありませんが、アイデアそのものは非常に面白いです。
『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』では「蕃書調所」になっている所(現在の共立女子大)がこの地図では「地誌調所・開成所」となっています。蕃書調所→洋書調所→開成所と名称が変わっているので、『東京時代MAP 大江戸編』の方が後の時代のデータを使っているようです。

[Amazon]
同じシリーズで、他の地域の地図も出ています。
奈良時代MAP 平城京編
京都・観光文化時代MAP
京都時代MAP 伝統と老舗編
京都時代MAP 平安京編
京都時代MAP 安土桃山編
京都時代MAP 幕末・維新編
名古屋時代MAP 江戸尾張編
城下町時代MAP 関東編
城下町時代MAP 上方編

切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩

江戸切絵図と現代の地図を対比させたもので、見開きで左ページが切絵図、右ページが同じ場所の現代の地図になっています。ただし昔の切絵図そのものではなく、新たに版を起こして作られた地図です。切絵図は土地の形が不正確なので、現代の地図と完全には一致しません。

現代図の上にかなり詳しい説明が加えられており、大名の屋敷についても、主なものにはどこの藩の何屋敷と説明がついているのでわかりやすいです。『東京時代MAP 大江戸編』では、防衛庁(防衛省)の部分には「尾張殿」としか書いてありませんが、『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』ではちゃんと「御三家・尾張藩徳川家上屋敷」と説明が加えられています。その他著名な寺社や地名についても説明があります。人物名・地名などの索引があるのも便利です。

ある意味仕方のないことですが、切絵図に合わせてあるため、地図によって方角・縮尺がばらばらで、地図同士の位置関係がややわかりにくくなっています。冒頭の索引図がごく簡単なつくりで、図に地名が全く書かれていないのも残念です。横28.6センチ×縦25.4センチとかなりの大判なので、街を歩きながら見るには『切絵図・現代図で歩くもち歩き江戸東京散歩(Amazon)がいいでしょう。

元になった切絵図の刊行年代がまちまちなので一概には言えませんが、大体において江戸東京重ね地図より時代は後です。江戸東京重ね地図では蕃書調所が九段坂下にありますが、『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』では一ツ橋にあります(蕃書調所は始め九段坂下に作られ、のち一ツ橋に移転しています)。

古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩

明治時代の地図と現代の地図を見開きで対比させたものです。明治の地図は、1907(明治40)年に編纂された「東京市十五区番地界入地図」を元にして新しく描かれたものです。この地図は郵便の集配業務のために作られたもので、町名・番地が記載された詳細な地図です。元の地図は縮尺が1:5000ですが、この本では1:8000に変更されています。
掲載範囲は旧東京15区全てで、現在でいうと千代田区・文京区・台東区の全てと、新宿区・港区・中央区・墨田区・江東区の一部です。東京15区は1878(明治11)年に成立し、1932(昭和7)年に35区となるまで続きました。

東京の街は明治維新、関東大震災、太平洋戦争、東京オリンピック時に大きく変化していますが、この地図では関東大震災前の東京の姿を知ることができます。『切絵図・現代図で歩く江戸東京散歩』と同様、現代図の上にその場所についての詳しい説明が加えられています。「明治大正」とはいっても、江戸時代の説明が少なくないのですが、それもご愛嬌というものでしょう。明治の地図には番地が載っているので、ピンポイントで何かの場所を知りたい時に役立ちます。昔の町名や主なランドマークの索引が載っているのも便利です。なお現代の地図にはコンビニやファストフードの位置まで記されています。

1:8000という縮尺は、地図としては細かい部類に入ります。地図1枚の掲載範囲は横2km・縦1.8kmで、広過ぎず、狭過ぎずでちょうどいいと思います。掲載範囲自体は散歩に使うのに適しているのですが、この本はかなり大きいので、これを持って散歩するというのはちょっと厳しいと思います。

区分図という元の地図の特性を活かそうとしたのか、明治の地図には一枚に一つの区の地図しか載っていません。対象となる区以外は空白になっているため、区の境界付近を見る時には不便です。新しい版を起こしたのですから、何も元の区分地図にこだわる必要はないと思うのですが……

古地図・現代図で歩く昭和東京散歩

1941(昭和16)年当時の地図と現代の地図を見開きで対比させたものです。昭和の地図は、戦前に発行された東京区分詳細図などを基にして新たに描かれた地図です。関東大震災から復興した後、太平洋戦争で戦災に遭う前の東京の姿を知ることができます。

東京15区は1932(昭和7)年に35区に拡大されましたが、この本では、旧15区全てと大森区・品川区・渋谷区(渋谷駅周辺)・淀橋区(新宿駅周辺)・豊島区(池袋駅周辺)・滝野川区・城東区の一部が掲載されています。旧15区については、地図の分割の仕方は『古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩』とほぼ一致するので、見比べるのも容易です。縮尺は1:8000(一部は1:9000・1:10000)で、『古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩』同様番地も記載されており、町名索引もあります。また珍しいところでは、関東大震災と太平洋戦争時の火災焼失図も載っています。

戦前の地図では、軍などの重要施設は機密保持のために地図から除外されることがありました。「戦時改描」と呼ばれますが、この本はそれまで復元しています。例えば淀橋浄水場(現在の高層ビル街のあたり)には庭園の記号が付されており、一面緑地のように描かれています。こうした点について説明が加えられていない地図もあるので注意が必要です。
ところどころに「~邸」という記載が見られます。華族や実業家などの家ですが、地図に載るような屋敷はどんな大きなものだったのか見てみたい気がします。

また『古地図・現代図で歩く明治大正東京散歩』同様、昔の地図は区分図の体裁を取っており、基本的に一枚の地図には一つの区だけしか掲載されていません。

古地図・現代図で歩く昭和30年代東京散歩

他のシリーズと同様、左ページの昔の地図と、右ページの現在の地図を対比させています。元の地図は「東京都区別地図大鑑」(人文社)昭和31年版で、それを元に新たに書き起したものです。1962(昭和37)年に公布された「住居表示に関する法律」によって都内の地名には大きな変更が加えられました。また、東京オリンピックを契機に東京の街は大きく変化しましたが、この地図ではそれ以前の東京の姿を知ることができます。

『明治大正東京散歩』や『昭和東京散歩』とは異なり、区の境界付近は他の区も描かれています。やはりそういう要望があったのでしょうか。一つの区を1ページに収めているため、区によって縮尺は異なります。面積が広い世田谷区は1:42000で、一方台東区などは1:18000です。また地図の向きもバラバラで、北が上とは限りません。23区すべてが載っているのはいいのですが、かなり細かく、昔の地図は地名や建物名が多すぎてやや見づらくなっています。また、地図だけではページ数が足りないのか、記事が増えています。

市電だけでなく、トロリーバスの路線も載っています。また主要駅のバス乗り場の地図といった珍しい地図もあります。バス路線図もあるのですが、図が小さいのが残念です。記事にページを割くくらいならこうした地図を大きく載せてほしいものです。

東京懐かしの昭和30年代散歩地図

昭和34年発行の東京都区分地図と現在の地図を見開きで対比できるようになっています。各エリアごとに、街の説明と地図、当時のモノクロ写真がまとめられています。新しい版を起こすのではなく昔の地図をそのまま掲載しているため、一部には文字が読みづらいページもありますが、それもまた味があって悪くありません。

昔の地図と今の地図を見比べると、地名の変化が目に付きます。特に地名の変化が著しいのは六本木・麻布界隈です。麻布我善坊町・飯倉片町等は麻布台、麻布鳥居坂町・麻布箪笥町等は六本木、麻布網代町・麻布坂下町等は麻布十番と、細かく分かれていた街区が大きな街に統合されています。その一方で、麻布狸穴町のように例外的に昔の地名が残されたところもあります。

また、実は新宿という町名は今よりずっと狭い地域を指していたこともわかります。昭和34年の地図で見ると、国道20号線沿いの新宿御苑に隣接したごく狭い地域だけが新宿で、新宿駅から西口の高層ビル街のあたりは「角筈」になっています。また新宿とは対照的に、池袋の範囲は今よりかなり広かったこともわかります。 参考までに江戸東京重ね地図で見てみると、確かに旧新宿のエリアには内藤新宿下町・内藤新宿仲町・内藤新宿上町があり、新宿駅のあたりには角筈村と記されています。新宿という地名の元となった本来の内藤新宿は、伊勢丹から四谷区民ホールのあたりまでを指すようです。

町ごとに色分けされているため、町名の変遷を見るには便利です。ただ、昔の地図にはそれほど建物名が掲載されていないので、「ここには昔こんな建物があった」ということを地図から読み取る面白みはあまりありません。その代わり、著名なランドマークについては地図の上に番号が付されて解説が加えられています。
その他、地図をざっと見て気づくのは、縦横に走る都電の停留場の多さです。当時を知る材料として、もちろん都電の路線図も載っています。また、地下鉄が何年に開業したかをまとめたページがあるのですが、残念ながら路線図が現在のものしか載っていません。ここはやはり昭和30年代の地下鉄路線図を載せてほしいところです。

地図とは関係ありませんが、昭和39年のテレビ番組表なども掲載されており、当時の世相を知ることができます。地図本というより歴史本の範疇に入る本かもしれません。当時の東京を知らない人にも楽しめる本です。

昭和・大正・明治の地図でいく東京懐かし散歩

雑誌『散歩の達人』の連載記事をまとめた本で、著者は以前地図専門誌『ラパン』の編集長をされていた方です。 25の街それぞれについて、昔の地図が2枚と現在の地図(簡単な見取り図程度)が1枚、それにコラムという構成です。23区内だけでなく、多摩地方も取り上げられています。

昔の地図は国土地理院(陸地測量部を含む)の地図がほとんどですが、民間の地図や区役所作成の地図なども紹介されています。地図の年代はそれぞれの街によって異なります。原宿・表参道は昭和59年と昭和37年、上野・浅草は明治14年と明治43年という具合です。縮尺もいろいろで、2万5千分の1から大縮尺の住宅地図まであります。神保町の地図は昭和5年の住宅地図ですが、現在の地図と見比べると、今でも同じ場所に店を出している古書店を発見できます。

コラムでは、単に「ここには昔何があった」という話にとどまらず、地名の変遷や昔の世相、都市計画などについてもふれられています。昔の文学作品からの引用も多く、作家の目から見たその土地の雰囲気なども読み取れます。著者が実際に現場に足を運んで書かれているため、実際に散歩をしている雰囲気が味わえます。
ただ、著者に関係があった地域については、当時の臨場感あふれる話が書かれているのはいいのですが、その分思い入れが強すぎて、著者の思い出語りが多くなっているのが若干気にならないこともありません。

特定の年代の地図を見たいという用途には向いていませんが、古い地図を参考にして散歩の計画を立てるにはぴったりの本だと思います。

地図帳・地図本の紹介に戻る

最終更新日:2010/11/21
公開日:2008/12/4