地図趣味のすすめ

地図趣味のすすめtop >地図帳・地図本の紹介 >東京の地形

東京の地形

川の地図辞典 江戸・東京/23区編

古地図を頼りに、昔の建物跡を探るという楽しみ方もありますが、昔の地形を探るというのも面白いものです。この本は、川の跡をたどりながら散歩する時にうってつけの本です。

「フィールド・スタディ文庫」の第一冊目です。「フィールド」というからには、外に持ち出して利用することを想定しているのでしょう。かなり分厚い本ですが、サイズは新書より少し大きい程度なので散歩の邪魔にはなりません。

現代の地図と過去の地図が対比されており、さらに川についての説明が付け加えられています。過去の地図は明治10年代の『第一軍管区迅速測図』(縮尺1:20000)で、現代の地図は1:25000地形図を縮尺1:20000に拡大したものです。現代の地図の上には、今地表に見られる川だけでなく、暗渠になっている川や川の跡も点線で記されています。昔の川については、『東京府志料』(明治7年)を元に構成してあります。川とは関係なく、古地図本としての利用もできます。

「こんな川があったのか」と思うような小さい川まで載っています。特に、渋谷近辺の川の多さには驚くばかりです。「金王八幡宮前の小川」などというような名前のない川まで地図には記載されています。カシミール3Dやデジタル標高地形図と比較しながら見ると、川によってできた地形が一目で分かり、東京の「原地形」を確かめることができます。

川がカラーで載っていれば見やすいのではないかとも思いますが、自分で色を塗ったり書き込みをして利用することを推奨している本なので、白黒なのも致し方ないところでしょう。
あまり需要が見込めないのか、価格は若干高めです。ただ、こんなニッチな分野で本を出してくれることには感謝すべきでしょう。

[Amazon]
川の地図辞典 多摩東部編

東京「スリバチ」地形散歩

厳密に言うと地図本ではないのですが、掲載されている段彩図が興味深いのでご紹介します。著者達が作った「東京スリバチ学会」のフィールドワークの結果をまとめた本です。「スリバチ」とは、川の浸食で削られた窪地状の谷のことで、関東では一般に「谷戸」と言われるものです。よく言われることですが、東京は坂の多い街です。東京の坂をテーマにした本は何冊も出ていますが、窪地を取り上げた本は珍しいと言えるでしょう。

都市開発が始まる時期が早かったことが、逆に東京の谷戸地形を残すことにつながったという指摘には目から鱗です。近代以前では、現在のような土地改変が困難だったため、土地の形を生かした開発が行われたと著者は指摘しています。それが明治以降もそのまま引き継がれたため、今でも東京には、本来の地形を生かした街が多く残っているのです。

雑司が谷、碑文谷、幡ヶ谷といった、地名に「谷」がつく場所だけでなく、麻布や六本木などの台地のイメージが強い場所や、さらには日本橋のように、一見したところでは谷が目立たない低地まで、著者は丹念にスリバチを探して歩いています。

地図趣味的に興味を引かれるのは、それぞれのエリアの地形段彩図です。数値地図5mメッシュ(標高)をカシミール3Dで加工し、0mから30~40mまで、標高を細かく色分けした地図です。標高の色分けは、地図によって異なります。おそらく、地形をわかりやすくするために、それぞれの土地に合わせて色分けを細かく調整しているのでしょう。カシミール3Dに始めから組み込まれているパレットには、標高が低い土地での標高差をきれいに表現できるものが少ないので、オリジナルのパレットを作る時に参考になります。私は各標高の設定色をスキャンしてカラーピッカーソフトで色を読み取り、パレットに設定してみました。

現地の写真が豊富で、基本的には街歩きの本です。地質学的な裏付けも豊富で、脳内旅行者にも参考になります。坂、川跡、暗渠、山、窪地と、東京の地形に関してはさまざまなテーマの本が出尽くした感がありますが、次に出てくる題材は何でしょうか。

[追記]
次に出てきた題材は「崖」です。『デジタル鳥瞰 江戸の崖 東京の崖(Amazon)という本が出ています。これも地図本とは言えないのですが、「崖」というテーマの珍しさもさることながら、掲載されている写真が非常に興味をそそられます。カシミール3Dのカシバード機能を利用したもので、航空写真と5mメッシュの標高データを重ね合わせ、標高を10倍に拡大して表示させた写真です。この写真を見ると、まさに地形が目の前に迫ってくるような気がします。

[Amazon]
凹凸を楽しむ 東京「スリバチ」地形散歩2

東京凸凹地形案内

「5mメッシュ・デジタル標高地形図で歩く」という副題の通り、デジタル標高地形図の掲載範囲のうち渋谷・上野など12地域を取り上げて、地形図とともに散歩のモデルコースを紹介しています。デジタル標高地形図自体は国土地理院のホームページから無料でダウンロードできますし、地図としても販売されていますが、この本ではそれに地形に関する説明を付け加えています。

ただ、こうした東京の地形に関する本は、今では他にもたくさん出版されています。地形を歩いて確かめるというコンセプトの本も特に珍しいものではなく、若干食傷気味ではあります。この本の場合、せっかくモデルコースを提示していながら、そのルートがデジタル標高地形図上に記載されていないのも残念です。監修が地図研究家の今尾恵介氏ですから、内容自体には文句の付けようがないのですが、デジタル標高地形図というせっかくの素材を生かし切れていない気がします。

値段の割にページ数が少ないのも物足りません。無理に現地を歩くという体裁を取らなくても、純粋に素材をデジタル標高地形図だけに絞った上で、もっと多くの地域を取り上げて徹底的に地形を分析して欲しかったという気がします。

[Amazon]
東京凸凹地形案内2: 都心のディープスポットから、武蔵野・多摩エリアまで
地形と鉄道: 東京凸凹地形案内3

地図帳・地図本の紹介に戻る

最終更新日:2013/10/24
公開日:2010/11/26