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帝国書院の復刻版地図帳 地図で見る昭和の動き

昭和9年・25年・48年版の中等学校用地図帳の復刻版です。昔の日本地図・世界地図を見たい時におすすめです。

昭和9年版復刻版地図帳

日本地図の『増訂改版 新選詳図 帝國之部』と世界地図の『増訂改版 新選詳図 世界之部』の二冊組みです。

『帝國之部』では、いきなり1ページ目の凡例に師団司令部・旅団司令部・連隊司令部といった地図記号が登場するのに驚きます。軍関係の記号はかなり細かく分類されており、騎兵連隊・重砲兵連隊・野戦重砲兵連隊等、すべて異なる記号が使用されています。また、この地図帳は中等学校用ですが、巻頭の「例言」にはかなりむずかしい言葉が登場します。「渉猟」や「江湖」など、今の中学生や高校生にはわからないのではないでしょうか。
日本地図とはいえ、千島列島全体・南樺太・朝鮮・台湾・南洋諸島(国際連盟の委任統治領)・関東州(遼東半島先端部。日本の租借地)が含まれており、日本の範囲が今とは全く違います。山の統計には、富士山より高い山が三つも存在します。

『帝國之部』が右開きで文も右から左に書かれていたのに対し、『世界之部』は、左開きで文も左から右に書かれています。「世界現勢図及主要国国旗」のページに、日本国旗の左右に満州国旗とアメリカ国旗が並んで掲載されているのが目を引きます。地図でも、満州国が特に大きく取り上げられています。
またヨーロッパでは、ドイツのライン川沿岸、ボスポラス海峡などに「軍備禁止地帯」と記してあるのが目を引きます。いずれも第一次世界大戦の戦後処理によるものです。
アフリカはほとんどが植民地で、独立国はエジプト・エチオピア・リベリアだけです。また、南極大陸の形がまだ定まっていません。部分的に「~ランド」として大陸の一部が記してあるだけです。

昭和25年版復刻版地図帳

昭和25年版の『中学校社会科地図帳』の復刻版です。中国がチョンホワ(中華)民国、韓国がハーヌ(韓)民国となっています。現地の音を優先する動きがあったようですが、統計などでは「中国」となっており、国の呼称をどうするか混乱していたことがうかがえます。当時既に韓国と北朝鮮が建国されていましたが、この地図では朝鮮半島はすべてハーヌ(韓)民国扱いです。また、ドイツも東西に分かれていましたが、これも地図には反映されていません。そのほか、昭和9年版に比べるとアジアはだいぶ独立国が増えていますが、アフリカはまだまだです。

日本の地図にも、時代を感じさせる主題図が少なくありません。「浮浪児数」などという地図があります。今では完全な死語ですが、浮浪児とは戦争で親を失い、路上などで生活していた児童のことです。そのほか「寄生虫保有者数」などという図もあります。東北地方が「奥羽地方」になっているのも今から見ると違和感があります。
なお、当時は紙が貴重品だったので実際には粗悪な紙で作られていたはずですが、紙の質まで復元することを期待するのは無理というものでしょう。ちなみにこの地図の当時の定価は165円です。

昭和48年版復刻版地図帳

昭和48年版の『中学校社会科地図 最新版』の復刻版です。この版になると、ドイツ・朝鮮半島・ベトナムと、分断国家の姿が目を引き、昭和25年版ではまだあまりはっきりとは読み取れなかった冷戦の姿が明確になっています。

興味深いのは中国の扱いです。大陸には「中華人民共和国」、台湾には「中華民国」と記されており、両者の間には国境線が引かれています。1972(昭和47)年9月には日中共同声明が調印されており、日本は中華人民共和国が中国の正統な政府であると認めています。訂正が間にあわなかったと見えてこの地図にはそのことが反映されていませんが、昭和49年版からは現在の地図と同じように中華人民共和国のみが記載されるようになりました。昭和48年版の地図は、中華人民共和国と中華民国が併記された最後の地図だったのです。

そのほか、アフリカでは植民地がほとんど独立しており、かなり現在の地図に近いものになっています。
日本の地図では、山陽新幹線が岡山までしか延びていない一方で、新幹線の建設予定線が札幌まで延びているなど、細かいところで現在との違いが目立ちます。

各年版のほか、3冊すべてと解説書がついたセットも販売されています。すべてそろえて変化を追ってみるのも面白いのですが、一冊だけ買うなら昭和25年版がおすすめです。

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最終更新日:2009/8/10
公開日:2008/12/4