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古地図

図説 世界古地図コレクション

古地図の収集で有名な神戸市立博物館の所蔵品を中心に、カラー図版をふんだんに使って古地図を紹介しています。ヨーロッパ製の地図も掲載されていますが、ヨーロッパの地図を参考にして日本で作られた世界地図の方がメインです。「日本が世界をどう見ていたか」とともに「世界が日本をどう見ていたか」も同時に知ることができます。

伝説の島であった「ジパング」は、ポルトガル人の日本漂着後、世界地図の上で次第に具体的な姿を示すようになっていきます。それとともに、日本には世界地図が入り、日本人の世界観を左右するようになります。この本には、屏風になった世界地図の例が多数掲載されていますが、これなどは、まさに日本的な受容の好例です。

江戸時代になっても、日本で数多くの世界地図が刊行されていたことは驚きです。鎖国の中でも、長崎を窓口にして、世界の最新地理情報が日本にもたらされ、世界地図として国内で流通していたことがわかります。さらに日本を巡る情勢が緊迫すると、外国の正確な知識を得ることが必要になり、世界地図の需要が増します。蘭学の発展とともに地図は進歩の一途をたどり、やがてペリー来航で日本は世界地図の一大ブームを迎えます。

この本では、そうした世界地図の変遷を通じて、日本人の世界観の変化を目にすることができます。

それにしても、古地図というのは想像力を刺激するものだとつくづく思います。インターネットの発達で、いながらにして誰でもいつでも世界中の正確な地図を見ることができる時代になりましたが、その分想像力をかき立てられることは少なくなったような気がします。不正確な地図ほどかえってロマンの対象になるように思います。
古地図を集めた本は多数出版されていますが、そうした本の多くが高価な大型本です。この本は、古地図を手軽に見たいという時にうってつけです。

図説 日本古地図コレクション

『図説 世界古地図コレクション』と同じシリーズ本で、明治期より前の、日本列島全体を描いた地図がカラーで紹介されています。いわゆる切絵図は対象外です。日本で作られた地図だけでなく、日本を描いたヨーロッパ製の地図も載っています。伊能図のようなほぼ現代と変わらない地図にも感心しますが、それ以前の奇妙な形をした日本列島にも心ひかれます。昔の日本人がどのように日本を認識していたかを時代を追って追体験することができます。

地図の魅力は科学的な正確さばかりではありません。想像を含めて描かれた地図にもひかれるものがあります。この本の中で一番興味深いのは、江戸時代後期の「日本名所の絵」(鍬形蕙斎画)という地図です。日本列島全体を視野に入れた鳥瞰図で、かなりデフォルメされてはいますが、蝦夷から屋久島まで描かれており、さらにははるか朝鮮半島まで望むことができます。Google Earthで試してみると、高度300~600kmの地点から見た図と同じ視点です。これを地図と見るか絵画と見るかは難しいところですが、いずれにせよまさに衛星写真並で、その想像力には驚かされます。また「黄金の国ジパング」を描いたヨーロッパの地図からも、当時の人々の想像力を読み取ることができます。

古地図だけでなく、地図をかたどった櫛や皿などの工芸品も紹介されています。江戸時代には地図の出版がきわめて盛んでしたが、人々はそうした地図を実用的に利用するだけでなく、地図を楽しむという心の余裕まであったことがこうした工芸品から見てとれます。

解説はやや専門的ではありますが、日本地図の変遷を体系的に理解することができます。古地図を楽しむだけでなく、知識も得ることができるおすすめ本です。

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最終更新日:2009/12/19
公開日:2008/12/4